福岡高等裁判所 昭和24年(つ)728号 判決 1950年3月08日
被告人
蓑原義雄
主文
本件控訴は之を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
控訴本人の控訴趣意第一点の(1)に付いて。
(イ) 論旨は要するに檢察官の第二回の取調に当つて前回の取調の際における自白取消の申立を爲しその旨調書に記載方依賴したのに檢察官が之に應しなかつたのは刑訴第百九十八條第四項、刑訴規則第三十九條第二項に違反し、右第一、二回の供述調書を主要証拠として有罪の認定をした原判決は刑訴第三百二十二條に背反し結局同法第三百七十九條所定の手続法令の違反あるに帰すると云うにある。
然しながら刑訴法第百九十八條第四項に被疑者が增減変更の申立をしたときはその供述を調書に記載しなければならないとあるのは被疑者を取調べた際にはこれを調書に録取することが出來、その場合には該調書を被疑者に閲覽させ又は読み聞かせた上被疑者において右取調の際における自己の供述に限り增減変更の申立を爲し得べくかかる申立のあつたときは之を該申立を右調書に記載すべき旨を命じているものであつて当該取調に付いて自己の供述の增減でも変更でもないこれとは別個な被疑者の勝手な申立まで右調書に記載すべきことを命じているものではない論旨に摘示の刑訴規則第三十九條も全く同趣旨である。今本件に付之を見るに第一回の取調は犯罪事実自体に関するものであり第二回の取調は犯罪事実に付いては全然触れず控訴人の日頃の行動起居に関するものであり控訴人の申立は前回取調の際における犯罪事実自白の供述の取消であるから第二回の供述調書に右申立のあつたことを記載すべき何等の法令上の義務はない。
第一点の(2)に付いて、
(ロ) 刑訴法第三百三十五條第二項で判決において特にその判断を要求している同項に所謂法律上犯罪の成立を妨げる理由中には單なる被告人の犯罪事実の否認の如きは之を含まないこと明白であるから本論旨もまたその理由がない。